135日目 復活!
9月2日、東屋にて起床。昨日あまり寝付けずなかなかテントから出られなかった。しかしそうも言ってられないのでゴソゴソテントから抜け出し撤収。
どうやら昨日泊まった東屋は地元の方の散歩コースになっているらしく色々な人と話せた。地元の名物を教えてくれる人、ここからの山道で楽な道を教えてくれる人、それらの人々と話していると気が紛れてよかった。
何時から営業しているかもわからないのでなんとなく昼前頃に例の自転車屋に向かう。もちろん自転車を引いて歩いていく。歩いていると皆話しかけてくれる。徒歩旅もいいもんだなと思いつつ20分ほど歩き目的地へ到着。
こう言ってはなんだが本当にやっているのかやっていないのか分からない店構えである。写真を撮ればよかったがこの時はそんな心の余裕がなかった。レトロで趣きある建物だったのだが。
表が開いていて中で作業している爺さんがいたので話しかけてみる。
「すみません、チェーンが切れかかっているんですけど治せますか?」
するとその爺さんは表まで出てきてチェーンカッターを使い治し始めた。そして僕に後輪あげてくれ、と言った。ちなみに僕の自転車は荷物のほとんどが後輪に載っているためとてつもない重さになる。それを持ち上げ続けるのはなかなか骨が折れる作業だった。と言うよりか筋繊維が切れる作業だった。こんなところでパンプアップしてどうする。
するとものの1時間もしないうちにチェーンは再び回り出し、いままでと変わらない漕ぎ心地になった。完璧である。すごい職人がいた。
結構時間もかかったし、爺さんもなかなか苦労していたようだったが、修理費はいくらなのか尋ねてみた。
爺さんは一言、いらねぇと言った。お世辞にも繁盛しているようには見えない自転車屋、しかもみんな顔見知りのようなこの街で余所者の僕に、お代はいらないと言った。
僕は、ただ、ありがとうございます、としか言えなかった。爺さんは一言返事をして奥に戻って行った。最後に深く礼をしてこの町唯一の自転車屋を後にした。
それからの町の景色は一気に変わって見えた。と言うより道の駅からここまではうつむきがちだった顔を上げて町を見ることができた。
この日は時間も時間だったので長距離を走ることを諦めてゆっくりすることに決めた。近くに温泉があるらしくそこでゆっくり湯に浸かり、心配で凝り固まっていた体を休めた。のどかな町営の温泉で休憩室には蟹が我が物顔で歩いていた。
その後近くにあった公園をキャンプ地に定め、夕飯を作って食べた。その間に近くの現場で作業していた方としばらく話し、楽しいひと時だった。紀伊半島は不思議と人と人の距離が近い。何か北海道を思い出すような感じだった。
夕飯を食べ終えた頃にまた大雨が降ってきたのでテントに入って就寝。
走行距離 10キロ